肝臓はたくさんの働きをこなす臓器ですが、その分、疲れを溜めやすい面もあります。

ところが、肝臓はとても我慢強いので、

疲労していても症状が現れずに悪化してしまうことも少なくないのです。

そして、そのダメージを回復させるのに有効なのが“運動”です。

ここでは“運動”が肝臓の機能改善に役立つ理由と、効果的な運動法を紹介します。

 

肝臓の特徴

肝臓は人の体の中で最も大きな臓器で、

その重さは体重の約50分の1、成人男性なら1.2kgほどにもなります。

また、その機能も多く、

  • 栄養素の代謝
  • 解毒作用
  • 胆汁の生成・分泌
  • 免役

などの働きを、数千種類の酵素を用いて500以上の複雑な化学反応により行っています。

このため、体内のあらゆる器官や組織と深い関係にあり、

肝機能の低下は体全体の不調へと影響します。

ところが、肝臓には非常に優れた“再生力”があり、

多少切り取られても元の大きさに戻ることができます。

ラットの実験では、3分の2を切り取られた肝臓が1週間で元に戻るほどなのです。

さらに、肝臓は何らかの原因により85%程度の細胞が働かなくても、

その機能を維持することができると言われています。

 
この“再生力”と“機能維持”は生命活動のためには優れた点ですが、

1つ大きなデメリットがあります。

それは、その肝臓の持ち主に自覚症状が現れにくいため、

肝臓が大きなダメージを受けていても気が付けないことです。

再生力が強くても、無限なわけではありません。

繰り返し炎症などのダメージを受けていると、肝細胞が線維化して機能を失い、

肝硬変」などの進行した病気になってしまうのです。

このため、体に不調が現れた時には症状がかなり進行しているというのが、肝臓の病気です。

 
ですから、私たちは「もしかしたら肝臓が疲れているかな」「お酒を飲み過ぎたかな」などの

要因を感じたら、肝臓のケアを心掛けてあげることが大切です。

肝臓を労わってあげないと、知らず知らずのうちにダメージが蓄積していってしまうからです。

そのケアの1つとして重要なのが“運動”なのです。

 

運動の肝機能改善効果

前項で触れた通り、肝臓には巨大な化学工場の役割があるので、

肝臓へと物質を運んだり運び出したりすることが必要です。

また、多くの化学反応には酵素の他に“酸素”も重要な役割を果たしています。

これら大量の物質や酸素の運搬に重要なのが“血液”と“血流”です。

 
肝臓では大量の血液を必要としており、肝細胞に送り込まれる血液は1分間に1.1ℓ、

肝臓内に蓄えられている血液量は全体の10%以上と言われるほどです。

肝臓が赤黒い色をしているのは、大量の血液を含んでいるからなんですね。

さらに、これだけの量の血流を肝臓に送り込むには、それに適した血管が必要です。

肝臓には門脈・冠動脈・肝静脈と呼ばれる血管があり、

特に門脈と呼ばれる消化管などから栄養を運んでくる静脈は肝臓にしかありません。

 
このように、肝臓が無理なく機能するには

血液と血流が重要なのだということが理解いただけたと思います。

では、どうすれば血液を大量に肝臓に送り込めるのでしょうか?

それには、血液循環をよくすることが大切です。

これに最適なのが運動というわけです。

運動を行うと、心臓が活発に働き心拍数が上がります。

つまり、1分間あたりに送り出す血液量が増えるわけですね。

同時に、呼吸も早くなりますから、体内に新鮮な酸素を供給することができます。

酸素や栄養分を多く含んだ血液は、血管を巡り肝臓へと到達します。

肝臓はこれらを受け取り、生じた老廃物を運び出してもらうことで働きやすくなるわけです。

さらに、ダメージを受けた肝細胞を修復したり再生させたりする材料も

血液によって持ち込まれるので、回復を促進させることもできます。

 
そして、もう一つ、運動による大きな効果があります。

それは筋肉を増強させることが、肝臓の負担を軽減させることにつながるからです。

実は、「筋肉は第二の肝臓」と言われていて、肝機能が低下しているときには、

筋肉が糖・アミノ酸の代謝や血中アンモニアの無毒化を行ってくれるからです。

肝臓の代わりに筋肉が働くなんて、意外ですね。

しかし、いわばこの“代行作業”によってダメージを受けている肝臓の負担を減らし、

その分のエネルギーが肝機能の回復にあてられるようになるのです。

運動が肝機能改善に役立つ理由はここにもあるんですね。

 
以前は「肝臓疾患がある場合は安静に」と言われていましたが、

現在では肝炎の回復期慢性肝炎脂肪肝などでは、

程よい運動が肝機能改善に効果的とされています。

同程度に肝機能の低下が見られても、症状は筋肉量が多い人の方が軽いとも言われています。

また、運動によってエネルギーを消費することは、

現代人に多く見られる脂肪肝の予防や改善にも効果があります。

適度な運動を行って、筋肉量を維持するように心掛けましょう

ただし、腹水黄疸が見られるような重篤な場合は安静が一番ですよ。

 

肝臓に適した運動のポイント

では、どんな運動が肝臓に良いのでしょうか?

肝臓に適した運動のポイントは、

  1. 有酸素運動であること
  2. 脈拍が上がり過ぎないようにすること
  3. 腹式呼吸を行うこと(できるだけ)

 
です。

もう少し詳しく見ていきましょう。

有酸素運動

有酸素運動とは、酸素を消費してエネルギーを生み出しながら行う運動のことで、

これと対照的に、酸素を使用しないでエネルギーを作る無酸素運動(後述)があります。

 
有酸素運動のメリットは

  • 体内の糖質や脂肪が酸素とともに消費できること
  • 筋肉への負荷が少ないので長時間行えること
  • 呼吸筋を活発にするため酸素を多く摂り込めること
  • 心筋を発達させ血液循環を良くさせること

で、ダイエットだけでなく脂肪肝の改善や

酸素を多く含んだ血液を肝臓に届けることができるので、肝機能の改善に適しています

また、ぐったり疲れてしまうほどの強度はないので続けやすいこともポイントです。

心地よい疲れによって深い眠りにつくこともできますね。

 
手軽な有酸素運動としてはウォーキング、ジョギング、サイクリング

水泳、水中ウォーキング、エアロビクスなどがあります。

運動を始めたら30分以上は続けると良いでしょう。

また、わざわざ運動をしに行かなくても、生活の中に取り入れることもできます。

1~2駅手前で降りて30分以上歩いて通勤・帰宅する

車・バスではなく自転車や徒歩に変える、階段の利用を心掛ける…などです。

 
なお、有酸素運動は強度が低いので、主に下半身の筋肉維持には効果がありますが、

上半身や筋肉の増強などには適していません。

筋肉の強化を目指すなら、医師に相談の上、トレーニングを追加してみるのも良いでしょう。

脈拍

前述の有酸素運動は身体への負荷が少ないため、動悸が激しくなることはありません。

この「脈が速いかな」というくらいがちょうどいいのです。

具体的な数値で表すと、脈拍が1分間に110~120を超えない程度が最適と言われています。

脈拍とは心臓が血液を送り出すときに生じた拍動が動脈を伝わってきたもので、

通常は1分間あたりの回数を指します。

健康な成人では脈拍数は1分間に50~90ですので、

軽めの運動であっても有酸素運動を行うと心臓が活発に動き

血液を全身へ送り出していることがわかりますね。

なお、脈拍は正式には電極を付けて心電図をとることで測定しますが、

簡易的には手首内側の動脈の拍動を数える方法があります。

脈を打っている部分(親指の方)に、

人差し指・中指・薬指の3本を当てると数えやすいですよ。

1分間ずっと数えているのは大変なので、

不整脈がなければ20秒間の回数を3倍して1分間あたりに換算するのがおすすめです。

 
でも、運動しながら脈を測るのは面倒くさいですね。

脈拍110~120の目安は「運動しながら楽に会話ができる程度」と言われています。

会話を始めて息切れを起こすようなら、

もう少し運動のペースや強度を落とし、ゆったりと行いましょう。

最近ではウェアラブル(携帯型)の脈拍計も販売されていますので、

これを利用するのも良いでしょう。

腹式呼吸

体への負荷が少ない有酸素運動の効率を上げるのが「腹式呼吸」です。

腹式呼吸はこれそのものが有酸素運動と言われるほど、効果が高い方法です。

通常の胸式呼吸では主に肋骨を広げて肺を膨らませますが、

腹式呼吸では腹筋を使って横隔膜を上下させることで行います。

このとき、腹筋を中心に全身の筋肉が緩み、内臓へも刺激を与えられることから

腹式呼吸の方が体の隅々まで血液を送るのに適しているのです。

 
しかし、「お腹を使って呼吸して」と言われてもできないことがあります。

この傾向は男性よりも女性に多く見られ、

これは女性の方が胸式に頼った呼吸法をしていることが多いためと言われています。

でも、慣れればいつでもどこでも簡単に行うことができるので、

ぜひ取り組んでみましょう。

わかりやすいのは仰向けに寝た状態で、お腹に手を当て、

息を吸い込みながらお腹が膨らむのを意識する方法です。

そして、ゆっくりと時間をかけて、お腹をしぼませるように吐き出します。

これができるようになったら、座った状態でもやってみてください。

慣れると運動しながらでも行えるようになります。

腹式呼吸も有酸素運動ですから、これだけでも血流がよくなり、

肝臓へ新鮮な血液を送ることができますよ。

 

脂肪肝改善の研究報告

肝臓のために運動が良いのはわかるけれど、

一体どのくらいやれば効果が出るのかは気になるところですね。

一般的な有酸素運動で血流改善や脂肪燃焼などの効果を上げるためには、

1回30分以上が望ましいと言われています。

特に、「非アルコール性脂肪肝(NASH)」に関しては

筑波大学から次のような研究報告がありますので、紹介しましょう

(2015年4月3日プレスリリース)。

 
筑波大学医学医療系の正田純一教授(消化器内科)らが行った実験です。

簡単に言ってしまうと、

  • 中高強度の身体活動量は非アルコール性脂肪性肝疾患の肝臓の状態を改善する
  • この脂肪性肝疾患の改善と体重の減少とは関係がない

ことがわかったというものです。

ここでいう「中高強度の身体活動」とは、

時速4~7kmのウォーキングやジョギングに相当するとイメージすると良いでしょう。

これを週に250分以上3か月行うと脂肪肝が改善できるというものです。

250分未満では効果が十分ではなかったそうですから、注意してくださいね。

単純に計算すると、毎日37分間以上の運動でOKということですから、実践できそうですね!

ただし、脂肪肝の改善と体重の減少には相関がないそうなので、

体重が減らないからといって「効果がない」と勘違いせず、運動を続けることが大切です。

 

注意点

まず大切なのは、通院中であるなら医師に運動が可能かどうか確認しましょう。

健康診断などで肝機能の低下が気になるようであれば、運動を始めることをおすすめします。

ただし、有酸素運動にしてください。

筋肉トレーニングや瞬発力を要する運動は無酸素運動と言い、

これによって筋肉で乳酸が作られてしまいます。

生じた乳酸は肝臓で処理されるので、結果的に肝臓の負担を増すことにつながります

脈拍が1分間に120を超えるような激しい運動も無酸素運動になりますので、

肝機能改善の点からみると逆効果です。

腕立て伏せ、短距離走なども無酸素運動です。

筋肉を強化したい場合や激しい運動などを行うことは

肝機能が低下しているときには望ましくありませんが、

様子を見ながら少しずつ強度を上げたり、有酸素運動も行ったりして、

負担を最小限に抑えるように気を配りましょう。

 
また、運動は寝る1時間前までには終わらせておきましょう。

運動の直後は心身ともに覚醒していますので、眠りに落ちにくくなってしまいます。

睡眠は肝臓を含めた内臓や脳の機能回復にとって重要なものなので、

これを妨げないようにしてください。

ただし、軽いヨガやストレッチなどの有酸素運動はリラックスさせる効果がありますので

実践するのも良いでしょう。

腹式呼吸を行っても緊張が取れてゆったりとした気分になり、眠りやすくなりますよ。