「腰痛」と言えば、加齢や重労働によるもの、ギックリ腰などが思い浮かびますね。

しかし、こういった筋肉のダメージ以外でも腰の痛みを生じる場合があります。

それが「内臓性腰痛」です。

内臓性腰痛には原因となる臓器がいくつかありますが、

その中でも症例の多い「肝臓」にスポットを当て、

腰が痛くなる理由や、その原因となる肝臓の病気、その他の症状について解説していきます。

 

内臓性腰痛の原因と肝臓

腰痛」は日本人の国民病といわれ、

成人の90%が一生に一度は経験していると言われるほどです。

この痛みの85%は原因不明と言われていますが、多くは何らかの原因によって筋肉が硬くなり、

神経の痛みや血行不良を招いた結果として起こると考えられています。

その原因には同じ姿勢をとり続けることや疲れ、ギックリ腰のような急激な炎症、

過度なストレスによる脳の影響、女性の場合は月経・妊娠などがありますが、

内臓の異常による場合もあり、その代表的な臓器が「肝臓」です。

 
では、なぜ肝臓の異常が腰痛となって現れるのでしょうか?

もともと痛みとは、痛さを感じる神経が刺激されることで生じます。

ですが、肝臓にはこの神経が通っていません。

そのため、腰痛などとして感じる痛みは肝臓から発せられた痛みではないのです。

それでは、痛みが生じるのはなぜでしょう?

これにはいくつか原因があると考えられていますが、

その1つに肝臓による周辺組織の圧迫があります。

肝臓の炎症が悪化して腫れが酷くなると周囲の組織を圧迫するようになりますが、

その際に触れた神経や、圧迫による血行不良などによって「痛み」を生じる、というものです。

肝臓は腹部の背中側に位置しますから、

肝臓の腫れによって圧迫されるのは背中の下側…すなわち「腰」の周辺です。

そのため、肝臓の異常なのに腰の痛みとして間接的に認識されるケースがあるのです。

 
肝臓の他にも、「膵臓」「腎臓」「胃」などは

異常がある際に症状として腰痛が現れやすい臓器です。

これらは腰痛が生じる部位や感じ方によって、

どの内臓に異常があるのかを見極められる場合もあります(別項参照)。

腰痛は、肝臓の場合は病気がある程度進行したときに現れますが、

胃の場合は「胃炎」のような軽度の疾患でも痛むときがあります。

 

腰痛が起こる肝臓の病気

肝臓の病気で腰の痛みを感じる場合、考えられるのは「肝硬変」と「肝臓ガン」です。

この2つの病気は、「肝炎」という肝臓の炎症が悪化して進行した結果、発症します。

ただし、肝臓ガンについては肝炎から進行する「原発性」と、

他の部位に発生したガンが転移しておこる「転移性」があります。

ここでは、肝硬変・肝臓ガンと、その原因となる肝炎について解説しましょう。

肝炎とは?

肝炎はお酒や薬などでも生じますが、最大の原因は肝炎ウイルスに感染することです。

肝臓の細胞がウイルスに侵されると、

体内の免疫機能によってこれを排除しようと攻撃し始めます。

このとき、肝細胞も一緒にダメージを受け、炎症を生じるのです。

しかし、肝臓は非常に再生力に優れた臓器です。

肝炎ウイルスにはA型・B型・C型などありますが、

A型とB型の多くは適切な治療と驚異的な肝臓の再生力によって治すことができます。

ただし、C型ウイルスによる肝炎の70%が慢性化すると言われています。

この慢性肝炎が重症化すると、肝硬変へ移行する可能性が高くなります

肝硬変

慢性肝炎の肝臓では、体がウイルスを排除しようとする弊害として、

肝細胞の破壊と再生が繰り返し行われている状態になっています。

肝臓は我慢強く再生を繰り返し、肝機能を維持しようと頑張りますが、

やがて再生できなくなり、

破壊された部分が“かさぶた”のようになる「線維化」が起こり始めます。

この部分が徐々に増えていき、肝臓が硬くなった状態を「肝硬変」と言います。

 
原因として最も多いのがC型肝炎(約70%)で、次にB型肝炎(約20%)、

残りがアルコール性肝障害(約10%)ですが、

最近は脂肪肝から肝硬変になるケースも増えています。

C型肝炎の場合、大まかな流れとして、

肝炎の慢性化に10数年、慢性肝炎から肝硬変への進行に20~30年と言われていますから、

肝炎の発症から肝硬変に至るには30~40年かかることになりますね。

このため、肝硬変は高齢者ほど多く見られます。

 
肝硬変では、線維化した部分が肝細胞としての機能を失っている上に、

線維化によって血流が妨げられ、

肝臓内に必要な酸素や栄養素を供給できなくなってしまいます。

こうなると、生き残っている肝細胞も十分に働けなくなり、

肝機能はますます低下するという悪循環に陥ります。

そのため、肝硬変が重症化していくと、眼球の白目部分や皮膚が黄色味を帯びる「黄疸」や

発熱疲労感むくみ腹水などの自覚症状が現れ、腰痛を訴えるケースも出てきます。

肝硬変が進行すると、

最終的には肝臓の機能が著しく低下した状態である「肝不全」になったり、

肝臓ガン」を発症する確率が高まったりします。

 
なお、以前は肝硬変の大きな要因として「飲酒」があげられていましたが、

調査の結果、日本では飲酒の影響のみによる肝硬変は発症例が少なく、

飲酒の弊害とウイルス感染の合併によるものが多いことが確認されています。

また、最近では肥満や糖尿病患者に合併しやすい「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」から

発症する肝硬変の危険性が注目されています。

肝臓ガン

原発性の肝臓ガンは、肝炎が慢性化して肝細胞の破壊と再生を長期間繰り返すうちに、

遺伝子の変異がおこりガン化すると考えられています。

驚くべきことに、原発性肝臓ガンのほとんどが前段症状として肝硬変を経ています。

肝臓ガンも、肝硬変と同様に初期の段階では自覚症状がほとんどありません。

多くの場合、何らかの症状が出るころには、

かなり進行した状態になっていると言われています。

 

腰痛の見極め方とその他の症状

冒頭でも触れましたが、腰痛は筋肉の疲労や炎症でもおこります。

感じている腰の痛みの原因が何なのか、とても気になりますね。

ここでは「筋肉を原因とする腰痛」と「内臓系腰痛」を見極める目安を紹介します。

あくまでも目安ですので、腰痛以外にも気になる症状がある場合には、

早急に医療機関を受診することをおすすめします。

筋肉を原因とする腰痛

腰痛を感じるのが、

  • 体を前に倒したとき(前かがみ)
  • 体を反らせたとき
  • 体を左右に伸ばしたとき
  • 体をひねったとき

であるならば、筋肉が原因になっている可能性が高いと言えます。

腰周辺の「動き」によって痛みを感じたら、筋肉によるものと捉えることができますね。

しかし、中には病気になっている内臓がこれらの動きによって圧迫されたり、

周辺の神経を刺激したりして腰痛を生じることがあります。

こういった場合には“ある特定の動作”の時にだけ痛みを感じやすい傾向にあるので、

どんな動きの時にだけ痛みを感じるのか、注意深く観察してみましょう。

次項も併せてご覧ください。

内臓性腰痛

筋肉が原因となる腰痛と違い、内臓の異常による腰痛の多くは

「筋肉を使っていない状態(安静時)でも痛みがある」

というのが特徴です。

安静にしていても、していなくても、いつでも腰が痛いというような状態です。

痛みとまで行かなくても、腰に違和感を覚えるケースもあります。

 
ちなみに、“安静時”とは横になっている状態のように、

どこの筋肉も緊張していない状態を指します。

ですから、たとえ座った姿勢・立ったままの姿勢のように、

動いてはいなくても体を重力に逆らって支えるために筋肉は緊張していますから、

腰に負荷がかかって腰痛を感じることがあります。

この場合は内臓性ではなく、筋肉による腰痛が該当する可能性があるので、

見極めるには横になった状態で確認しましょう。

 
腰が痛む原因となる代表的な臓器には「肝臓」「膵臓」「腎臓」などがあります。

また、内臓性の場合は、痛みを感じる部位が異常のある臓器によって異なったり、

腰痛以外にも体のどこかに異変が起きていたりすることが多く見られます。

これをまとめると次のようになります。

 

内臓疾患による腰痛の部位とその他の症状
内臓考えられる病気腰痛の出やすい部位その他の症状
肝臓肝硬変
肝ガン
背中の下部・腰の右側黄疸・だるさ・むくみ(肝性浮腫)など
特に肝硬変では手掌紅斑・クモ状血管腫など
膵臓膵炎
膵臓ガン
腰から背中にかけての右側膵炎では吐き気、嘔吐、腹部膨満感、食欲不振、発熱、だるさなど
ガンでは腹痛(胃の周辺)、黄疸など
腎臓腎結石
水腎症
腎盂炎
腎盂腎炎
腰から背中にかけての右側または左側頻尿、少尿、血尿や排尿時の残存感など

しかし、これが全てではありませんし、必ずしも合致するとは言えませんので、

1つの目安として捉えてくださいね。

では、各臓器についてもう少し詳しく見ていきましょう。

肝臓

肝臓の場合は、背中の下方腰の右側部分に痛みを感じることが多いようです。

これは、肝臓が腹部の右側に位置するためで、

腫れあがった肝臓がこの辺りの組織や神経を圧迫するために痛むと考えられています。

同じ右側でもお腹側に痛みを生じないのは、肝臓よりも前側に胃があるためで、

腰痛ではなく胃が圧迫されて胃痛などを感じるケースも見られます。

 
なお、腰痛を伴う肝臓の病気には「肝硬変」や「肝臓ガン」がありますが、

これらは筋肉の緊張も引き起こし「筋肉による腰痛」も併発しやすいと言われています。

しかし、上表のように黄疸・だるさ・むくみ・手掌紅斑・クモ状血管腫などの他の症状も見られれば、

肝臓に異常がある可能性が高くなります。

いずれも肝機能の低下による症状ですが、

特に肝硬変では手掌紅斑(しゅしょうこうはん)・クモ状血管腫が特徴的です。

手掌紅斑とは、手のひら側の親指や小指の付け根の下などのふくらんでいる部分が

かなり強い赤色になる症状です。

原因は、肝機能障害によって肝臓で「エストロゲン」というホルモンの処理ができなくなり、

血液中のエストロゲン量が上昇するためと考えられています。

全体がピンク色の場合は手掌紅斑ではありません。

また、クモ状血管腫とは赤い小さな隆起が起こり、

そこを中心として蜘蛛の足のように赤い毛細血管が拡がる皮膚症状のことです。

雪の結晶のようにも見えます。

胸部の上方から背中にかけて生じやすく、

隆起した部位を圧迫すると毛細血管が消えるので、割と簡単に識別することができます。

膵臓

膵臓は胃と小腸の間にある横に細長い臓器です。

正面から見ると胃のほぼ裏側になるため、確認することはできません。

膵臓の病気には膵炎膵臓ガンなどありますが、

多くの病気で「背中の痛み」を訴えることが多く、腰の周辺まで広がることもあります。

 
特に、急性膵炎の場合は「左の脇腹」に激痛を感じることが多く、

体勢をエビのように丸めていると痛みが和らぐ傾向にあります。

逆に反りかえると痛みが強まるので、見分けるポイントになりますね。

また、痛みは油っこい食事や飲酒の数時間後などに現れることが多いといいますが、

何の前触れもなく突然なることもあります。

この他、初期症状として吐き気や嘔吐、腹部膨満感、食欲不振、発熱などがあげられます。

一方、慢性膵炎では鈍痛であることが多いようです。

痛みは持続する傾向にありますが、そうでない場合もあります。

その他の症状として、

吐き気、嘔吐、腹部膨満感、腹部重圧感、全身倦怠感があらわれることがあります

 
また、膵臓ガンでも背中を中心とした痛みが現れます。

しかし、膵臓の周囲には胃・十二指腸・胆管・胆嚢がある上にリンパ節なども存在するため、

ガン化すると早い段階で他の組織への転移が起こりやすいという特徴があります。

さらに、膵臓ガン自体は自覚症状の少ないガンなので、

背中などの痛みを感じた場合にはかなり進行または転移している可能性が高いでしょう。

腎臓

腎臓は“そら豆”のような形をした握りこぶし大の一対の臓器で、

おへそとみぞおちの中間にあり、肝臓よりも背中側に位置します。

このため、痛みは背中側に出る傾向がありますが、

腎臓は左右に1個ずつあるので、痛みが出る場合は「腰の右側または左側が痛い」となります。

 
腎臓の病気にもいろいろありますが、腰の痛みを訴えるものが少なくありません。

特に、「腎結石」では左右どちらかの脇腹から腰・下腹部にかけて激痛が起こります。

さらに、腎結石などによって尿路の流れが悪くなると、

尿が腎臓の内部にたまって「水腎症」になってしまいます。

急性水腎症の場合は発生した腎臓側の腰から背中にかけての激痛を感じますが、

慢性の場合は鈍痛となります。

細菌感染による「腎盂炎」や「腎盂腎炎」などでも

腰から背中にかけて鈍い痛みが出る場合があります。

 
痛み以外の症状では、頻尿、少尿、血尿排尿時の残存感などの他、

細菌感染の場合は発熱も見られます。

症状が酷くなると腎不全を起こし、命に関わることもあるので、

早急に受診するようにしましょう。

 
このように、肝臓のほか、内臓の異常を原因とする腰痛は決して珍しいものではありません。

「単なる腰痛」と自己判断することは危険です。

特に他の自覚症状が見られる場合は必ず医師の診察を受けるようにしましょう。