肝臓の病気の中でも、進行した状態になると現れる症状の1つに「腹水」があります。

腹水がたまり始めると、本人はもちろん、周囲の人々も辛いものです。

なぜ腹水はたまり、どのようにケアすれば良いのでしょうか?

ここでは肝臓の病気を中心に、腹水の原因とケアにあたっての注意点を解説しています。

 

腹水とは?

肝臓・すい臓・胃など、私たちの臓器は“腹膜”という大きな膜で覆われています。

私たちが体を動かしても、臓器と臓器がぶつかったりこすれたりしないように、

“腹膜腔”と呼ばれる隙間が存在します。

この隙間にある液体のことを“腹水”といいます。

つまり、腹水は健康な人にもあるわけですね。

しかし、その量は通常20~50ml程度で、

1時間に40~80%が新しいものと置き換わっています。

一般的には、これよりも病的に増加した液体のことを「腹水」と呼んでおり、

腹水が大量に貯まった状態のことを「腹水貯留」といいます。

 

腹水がたまる原因

腹水がたまる原因としては、次の3つを上げることができます。

  • アルブミンの減少
  • 門脈圧の上昇
  • 腹膜などの炎症

このうち、「アルブミンの減少」「門脈圧の亢進」は非炎症性腹水

「腹膜などの炎症」は炎症性腹水に類別されます。

同じ腹水とは言うものの、非炎症性の腹水はタンパク質の量が少なく透明で凝固しにくく、

炎症性の腹水はタンパク質の量が多く混濁していて凝固しやすい、という特徴があります。

 
着目したいのは、非炎症性腹水の原因となる2点が、

どちらも肝臓に関係しているということです。

このため、例外はありますが、

腹水は肝臓の病気の症状として現れやすいということができます。

では、なぜ肝臓の病気と腹水の発生が関係しているのでしょうか?

非炎症性腹水の2つの原因について詳しく説明しましょう。

(炎症性腹水については後述します。)

アルブミンの減少

肝臓の機能の1つに“タンパク質の合成”があります。

アルブミン」とは肝臓で作られるタンパク質の一種で、血液中に多く存在し、

血清タンパク質の50~65%を占めています。

これは、アルブミンの分子量が大きいため、水やナトリウムなどのように、

血管の壁にある隙間から出入りすることができないためです。

 
アルブミンには体の各組織にアミノ酸などの物質を運んだり、

体液のpHを一定に保ったりする役割がありますが、

中でも重要なのは血液の浸透圧の調整です。

アルブミンには水の分子を引きつける力があるので、

自身が存在する血管内に水分を留めておくことができます。

このアルブミンのおかげで、血液が濃くも薄くもならずに適正な濃度に保たれているわけです。

ところが、肝機能が低下すると、必要な量のアルブミンを合成できなくなってしまいます。

すると、血管内のアルブミン量が低下するため、

血液中の水分が血管の外に染み出てしまいます。

出ていった水分が腹膜の中にたまったものが腹水になるわけです。

 
ただし、染み出す場所は腹膜の中だけではありません。

体の各部位でも細胞の隙間に水が溜まっていき、これがむくみの原因になります。

肝臓の病気では腹水と同じ原因で足などがむくむ「肝性浮腫」も多く見られます。

門脈圧の上昇

肝臓での炎症が慢性的に起きている状態というのは、

肝細胞の破壊と修復が繰り返し行われているということを意味します。

肝臓はとても我慢強く再生力に富んだ臓器なので、

炎症が起きていても修復を繰り返していくわけです。

このため、肝臓の初期の異変は自覚症状が少ないのです。

 
しかし、あまりにも長期間続くと肝臓の再生能力にも限界がやってきます。

すると、肝細胞の修復ができなくなり、

細胞は“線維化”という硬く縮んだ状態になってしまいます。

この線維化が進んだ状態が肝硬変です。

肝硬変になると、硬くなった組織が肝臓内の毛細血管の血液を流れにくくするため、

肝臓の中の血流が悪くなります。

こうなると肝臓の入り口である「門脈」を通れず、肝臓に入れなくなった血液は迂回して、

普段はあまり通らない側副血行路へと流れていきます。

肝臓へは大量の血液が流れ込むため門脈は太いのですが、

側副血行路は本来のルートではないために血液をスムーズに流すことができません

このため、肝臓内の毛細血管と側副血行路で行く手を阻まれた血液は、

門脈のところに滞りがちになります。

これによって門脈の血圧が上昇してしまうのです。

これを「門脈圧亢進症」といいます。

門脈圧が上昇すると、肝臓や腸などから腹膜内に水分が漏れ出してしまうため、

通常よりも多量の水分が腹水としてたまることになるのです。

 

腹水の症状や診断

腹水の溜まり方や重症度・余命については、

原因となる病気の進行状態や個人差などがあり、一概には言えません。

ただし、腹水の症状がある場合は、

病気が進行すればするほど、たまるスピードが速まる傾向にあります。

症状

腹水貯留の初期では自覚症状はありませんが、量が増すに従って

  • 体重増加
  • 腹部の膨張
  • 食欲低下(膨満感)
  • 喉の渇き
  • 尿量減少

などが見られます。

腹水は数リットルに及ぶこともあり、胃が圧迫されて食欲がなくなったり、

水分を腹水として奪われるために喉の渇きや尿の減少などが見られたりします。

診断

腹水が生じているかどうかは、腹部を軽く叩いて鈍い音がするかを確認する「打診」のほか、

腹部の超音波検査CT検査によって確認できます。

また、血液検査の血清タンパク分画でアルブミンの量や割合を測定し、

この数値が減少していると肝臓が原因で腹水がたまっている可能性が高くなります。

 

腹水がたまる病気

既に触れたように、肝疾患と腹水貯留には深い関係があります。

肝疾患の中でも肝炎などではほとんど見られず、

腹水が目立つようになるのは肝硬変(非炎症性腹水)・肝臓ガン(炎症性腹水)などの

進行した肝臓病が大半です。

 
肝臓は大きい上に再生力が高いため、

一部の機能が低下していても残りの部分がそれを補って仕事をこなせる期間が長い臓器です。

そのため、肝炎になって機能は低下していても何とか働ける状態ではあります。

しかし、肝臓の多くの細胞が線維化などして機能を失ってしまうと、

残りの細胞だけでは仕事を補えなくなってしまいます。

腹水はこの状態になる頃に症状として現れてきます。

ですから、「腹水=肝機能の大幅な低下」と捉えることができるわけです。

この状態が肝硬変と一致するため、腹水は肝硬変でよく見られる症状と言われるのです。

しかし、肝硬変のもともとの原因はというと、

いちばん多いのはC型肝炎からなる慢性肝炎です。

統計によると、肝硬変の60.9%と言われています。

次いでアルコール性肝炎B型肝炎に起因するものが多く、この3つで86%以上を占めています。

 
また、肝臓以外の病気でも腹水はたまります。

主な病気の一覧を表にまとめておきますね。

 

《腹水がたまる主な病気》
非炎症性腹水炎症性腹水   
肝硬変
肝臓ガン
うっ血性心不全
細菌性腹膜炎
ネフローゼ症候群ガン性腹膜炎
卵巣過剰刺激症候群などその他のガン
(胃、大腸、胆道、膵臓、卵巣、子宮)
急性膵炎など

 

腹水のケアについて

腹水は原因となる病気を治療しない限り、改善されません。

しかし、腹水ができるだけたまりにくくなるように注意することはできます。

主だったものを上げますが、必ず医師の指示に従って進めてください。

特に肝臓の病気が原因の場合、薬を飲ませることも害となる可能性があります。

勝手に薬(漢方薬を含む)やサプリメントを飲ませないようにしましょう。

水分

腹水の主成分は水であるため、体内の水分量が増すと腹水もたまりやすくなります。

ですから、余計な水分を摂り過ぎないようにするため、コントロールする必要があります。

水分は飲料として摂取するだけでなく、様々な食品に含まれています。

一見パサパサしている食パンだって4割近い水分を含んでいるのですから、

「飲み物ではないから問題ない」と思うのは危険です。

入院していれば必要な水分量は計算されて出されていますから、

それ以外のものを摂りたいときは必ず看護師などに尋ねましょう。

なお、目安としては食事・飲料を含めて1日あたり1ℓくらいと言われています。

食事(塩分・カリウム)

腹水がある場合、食事にも注意する必要があります。

特に塩分の摂取は厳しく制限しなければなりません。

塩分(ナトリウム)は体内に水を引き留める役割を持っています。

ですから塩分を摂り過ぎると水分の排出が阻害され、

体内に残った水分は腹水を増やす原因になってしまいます。

塩分も食品のあらゆるものに含まれているので注意しましょう。

特に日本人は塩分摂取量が多い傾向にあります。

腹水の状態にもよりますが、食塩として1日2g~7gまでが目安です。

加工食品はナトリウム(Na)として栄養成分表示がされている場合がありますが、

次の計算式を用いれば食塩に換算することができます。

食塩相当量(g)=ナトリウム量(㎎)×2.54÷1000

 
薄味に慣れるのは大変ですが、酢やレモン汁をかけたり、

ダシをしっかりとったりすると風味がよくなりますよ。

 
一方で、ナトリウムの排出を促進する「カリウム」の摂取を心がけるのも良いでしょう。

カリウムは野菜果物に多く含まれていますので、食事に取り入れてみましょう。

調理するときに茹でてしまうとカリウムが流れ出してしまうので、

生のまま食べるか電子レンジを利用して調理するのがおすすめです。

ただし、腎機能が低下している場合はカリウムが害を成すことがあるので、摂り過ぎてはいけません。

 

腹水の治療法

腹水は食欲の低下につながり、患者の体力を消耗させる原因にもなります。

加えて、腹部膨満による不快感、体力低下に伴う疲労感などは生活の質を下げてしまいます。

腹水の解消には基礎疾患の改善が必要ですが、

たまってしまった腹水を減らすことでこれらの弊害を一時的に解消することはできます。

しかし、腹水の治療を行っても、遅かれ早かれ、再びたまることは確実です。

また、体が楽になりますが、腹水を抜く行為自体のリスクが全くないわけではありません

患者本人の希望を聞き、医師の判断に委ねましょう。

 
腹水の治療は「腹水をたまりにくくする方法」と「腹水を取り除く方法」に分けられます。

主な治療法は次の通りです。

利尿剤

現在、腹水の薬物治療というと、「利尿剤」を用いるケースがほとんどです。

利尿剤には、尿を増やすことで血液中の水分を尿中に排出させ、

血液中のアルブミン濃度などを高める効果があります。

その結果、腹水として漏れ出した水分を血管内に戻るように働きかけることができ、

腹水を減少させるという治療法です。

従来の利尿剤は必要な電解質も尿と一緒に排出してしまうため、

腹水が改善しにくいという面もありました。

しかし、近年、水分だけを排出させる薬が開発され、

これと併用する方法も用いられるようになっています。

いずれも水分の摂取量が多すぎても少なすぎても体によくないため、

入院して経過を診ながら投薬するケースが多いようです。

アルブミンの投与

肝疾患による腹水の原因として、肝臓でのタンパク合成能力が低下したことによる

「血液中のアルブミン量の低下」があります。

それならば、不足しているアルブミンを体外から補給し、

血管から漏れ出る水分量を抑制したり、腹水中の水分を血管内に戻したりして、

腹水を減らそうというのがこの治療法です。

 
アルブミンは点滴で投与されますが、多くは利尿剤と併用されます。

高価なことと、人の血液から製造される限られた薬であるため、

保険適用内では使用制限があります。

また、病気の程度や合併症などによっては心臓などに負担がかかる場合もあります。

腹水穿刺(穿刺ドレナージ)

腹水によるデメリット(息苦しい、横になれない、など)が大きく、

すぐに解消したい場合に行われます。

超音波などで腹水が多く貯留している場所を選び、細い管を入れて腹水を直接抜きとります。

このため即効性があり、効果も大きいですが、問題点もあります。

一番問題となるのは、腹水にもアルブミンなどの血漿タンパクや栄養分が含まれているため、

腹水を除去することでもともと少ない血漿タンパクをさらに減らすことになる点です。

このため、逆に腹水が増えたり体力が低下してしまうこともあります。

この対策として、抜いた腹水をろ過して水分を取り除き、

濃縮した状態で腹腔や静脈に戻す方法「腹水ろ過濃縮再注入」を採ることもあります。

 
なお、腹水の治療は完全な医療行為です。

内服薬による治療もありますが、リスクを伴いますので必ず医師の指示に従いましょう。