便秘はありふれた症状なので、多くの人は「そのうち改善する」と思ってい過ごしていると思います。

しかし、便秘が作用して体に重大な影響を及ぼすことがあるのです。

その一例が肝臓疾患です。

ここでは、便秘が肝臓病に及ぼす影響とその理由便秘改善の方法について解説します。

 

便秘とは?

便秘」とは明確に定義することができない症状で、

実は国や学会によっても異なっている現状にあります。

これは人によって排便の回数や状態の差が大きく

どこまでが正常でどこからが便秘なのかの線引きができないためです。

例えば、日本消化器病学会では『便秘とは排便の回数が減ること』、

日本内科学会では『3日以上排便がない状態,または毎日排便があっても残便感がある状態』

とされています。

また、国際消化器病学会では機能性消化管障害について、

便の硬さや頻度などの排便状況から細かく分類した『RomeⅢ』を発表しています。

 
医学的な表現では難しいのですが、

便秘の定義について各学会のポイントを簡単にまとめると次のように考えられます。

便秘の定義例

  • 排便の回数の少ないもの
  • 便のの減少
  • 水分の少ない硬い便
  • 強くいきまないと出ない“排便困難
  • スッキリしない“残便感
  • 腹部の膨満感

 
つまり「自然に排便できず、便が長時間体内にとどまることで何らかの不快感がある状態」を

一般的に「便秘」としているわけですね。

ですから、たとえ2日に一回でも定期的に排便ができていて、

それによる不快感がなければ、それは“正常な排便”になるわけです。

逆に、毎日排便していた人が2日出なかったり、

毎日排便していてもコロコロとした硬い便が少量しか出せず残便感があったりすれば、

それは“便秘”に該当するということです。

排便に関しては個人差がとても大きいので、

これらのポイントと照らし合わせて判断してみましょう。

 

肝臓と便秘の関係

日本人では男性の約3割、女性の約7割が便秘であるという調査結果があるほど

便秘は一般的に見られるものです。

健康な人であれば、便秘による不快感や、それによる肌荒れなどの症状はあるものの、

重篤な病気を引き起こすほどのことはほとんどありません。

しかし、肝臓の機能が低下していたり、肝臓の病気を患っていたりする場合、

便秘を軽く見ることは危険です。

その理由は、便秘による副産物が肝臓の重要な働きの1つ“解毒”と大きく関わっているからです。

もう少し詳しく説明しましょう。

肝臓の“解毒”機能

私たちが食事から重要な栄養素である「タンパク質」を摂取すると

消化されてアミノ酸に分解されますが、これには窒素が含まれています。

この窒素の最終的な代謝産物として生じるのが、「アンモニア」です。

アンモニアには強い毒性悪臭があり、特に粘膜に対する刺激性が強く、

濃度 0.1% 以上のガスを吸引しただけで危険な状態に陥るほどです。

これはアンモニアに神経毒性(後述します)があるためですが、

この有毒物質が栄養摂取の過程において体内で発生するのですから、

そのままにしておくわけにはいきませんね。

そこで活躍するのが肝臓です。

肝臓は肝細胞にある「尿素回路(またはオルニチン回路)」という化学反応によって、

アンモニアを安全な尿素に変換します。

私たちはこれを尿として体外へ排出しているのです。

便秘によるアンモニアの発生

便秘は、ただ食べ物のカスが腸内に溜まっただけの状態とは言えません。

腸内菌叢のバランスが崩れていることの方が重大な意味を持つのです。

 
本来なら、腸の中にはビフィズス菌などの善玉菌と、

大腸菌やウエルシュ菌などの悪玉菌などが一定のバランスで存在しています。

善玉菌が優勢だと悪玉菌が存在していても目立った悪さはできないので害はないですし、

善玉菌が食べカスを発酵させて作った産生物質が腸の内壁に働きかけるので、

便通もスムーズです。

 
しかし、便秘が起きているということは、

善玉菌が劣勢で悪玉菌が優勢になっていることを意味します。

悪玉菌は食べ物の残りカスを自分たちのエサにして爆発的に増えているのです。

ところが、善玉菌と違い、悪玉菌がエサを食べる行為は“発酵”ではなく“腐敗”です。

私たち人間にとって有害な物質を腸内で作り出してしまうのです。

その1つが、腸内に残っているタンパク質の残りカスから生じるアンモニアです。

これが腸壁から血管内に取り込まれ、血液と共に全身を巡って肝臓に到達します。

前述の通り、肝臓にはアンモニアを無害化する尿素回路がありますから、

これによって解毒されるわけです。

しかし、便秘をしている人では悪玉菌が優勢になっているので、

通常の人よりも腐敗によるアンモニアの発生量が多くなります。

そして、発生するアンモニアの量が増えれば増えるほど、

肝臓では解毒を大量に行わなければなりません。

便秘が肝臓に大きな負担をかける理由はここにあるのです。

 

便秘の影響と肝臓の病気

便秘によって発生したアンモニアが肝臓に負荷をかけることになるとは言っても、

健康な肝臓の持ち主なら大きな問題になることはほとんどありません。

しかし、肝機能が低下している人や肝臓の病気を抱えている人には

思わぬ悪影響を及ぼします。

なぜなら、肝臓での解毒作用が十分に行えないため、

血液中のアンモニア濃度が上昇する「高アンモニア血症」になってしまうからです。

さらに重篤になると、「肝性脳症」になる場合もあります。

その理由や症状について詳しく見ていきましょう。

高アンモニア血症

血液中のアンモニア濃度が上昇している状態です。

尿素回路に必要な酵素を遺伝的に合成できない人や

タンパク質を大量に摂取した場合でも発症しますが、

肝臓の機能が低下していてもおこります。

症状は多呼吸、嘔気、嘔吐、意識障害、痙攣などで、

低年齢のときに発症すると発達障害などになるケースもあります。

肝性脳症

肝臓の機能低下が原因でアンモニアを解毒できず高アンモニア血症となり、

そのアンモニアが脳に障害を起こす症状です。

分類と肝疾患の例

アンモニアの解毒が行われなくなる原因によって

「急性型」「慢性型」「中間型」に分類できます。

 

【肝性脳症の分類】
急性型肝炎ウイルスなどによって急激に多くの肝細胞が壊死したために、
解毒が不十分になる場合
慢性型肝臓への血流が悪くなり、血液が迂回(門脈ー大静脈短絡路)してしまうため
肝臓での解毒作用を受けなくなる場合
中間型急性型と慢性型の要因が混在する場合

 
代表的な基礎肝疾患として、急性型は「劇症肝炎」、中間型は「肝硬変」があります。

特に、肝硬変では繰り返し起こる炎症の結果、肝細胞が線維化して硬くなるため、

肝臓内の血管が細くなったり遮断されたりし、

栄養や酸素を受け取れなくなった肝細胞が壊死したり、

血管の迂回路が形成されたりします。

こうなると解毒するために必要な肝細胞が足りなくなったり、

アンモニアを肝細胞に届けるための血管がなくなったりしてしまいます。

そのため、肝性脳症は肝硬変の重篤な合併症と言われています。

症状

肝性脳症では、精神症状と併せて運動系の症状が現れます。

肝性脳症の昏睡度分類による代表的な症状を上げておきましょう。

 

【肝性脳症の症状】
昏睡度症状
睡眠リズムの逆転、抑うつ症状
場所や時間や場所がわからなくなる、眠りやすい、
尿・便失禁、羽ばたき振戦
興奮、せん妄状態、
ほとんど眠っている状態、
羽ばたき振戦
昏睡状態(痛みに対して反応なし)
昏睡状態(痛みに対して反応なし)

 
特に初期の段階では、物忘れ・興奮しやすい・論理的でないなどの傾向が見られることもあり、

認知症と間違われることもあります。

アンモニア濃度の上昇が原因の可能性もありますので、

異常が感じられたら検査を勧めましょう。

なお、進行すると現れる「羽ばたき振戦」とは、

“指先まで腕を伸ばした状態で手首を反らすと指がゆっくり震える症状”で、

肝性脳症でよく見られるものです。

また、「せん妄」とは“混乱による激しい挙動や暴言、幻覚・幻聴”を指します。

脳障害がおこる理由

では、なぜアンモニアによって脳障害が起こるのでしょうか。

 
脳は人にとって重要な部位ですから、

脳へと血液を運ぶ血管の入り口部分にはゲート(血液脳幹門)があり、

不必要な物質が脳内に入り込まないようにしています。

ところがアンモニアは分子量が非常に小さいため、

このゲートを通り抜けて脳に入り込んでしまうのです。

アンモニアには神経毒性がありますので、直接的に神経にダメージを与えてしまい、

脳障害が起こると考えられているのです。

このように肝機能低下によって解毒が不十分な状態で、

便秘によって発生するアンモニアが上乗せされれば、

血中アンモニアの濃度はより上がりやすくなり、

肝性脳症が発生するリスクが高まってしまいます

このため、肝臓に異常がある人にとっては「便秘」は危険因子となるのです。

 
なお、肝疾患における脳障害の発生には、

脳内で代謝されるアミノ酸バランスが崩れることも一因とする説があります。

これは、肝臓の機能低下によって代謝経路に異常が生じ、血液中のアミノ酸バランスが崩れ、

神経伝達物質を阻害してしまうために脳障害が起こるというものです(フィッシャー理論)。

この理論には直接的に便秘は関係ありませんが、

便秘による血中アンモニア濃度の上昇が肝臓に負担を与えることは否定できません。

その結果、タンパク質の代謝異常を増進させ、

アミノ酸のバランスを崩させる一因にもなるのです。

肝臓が正常に機能するためには、便秘などの負荷を与えないに越したことはありませんね。

肝性脳症の治療

肝性脳症を治すには、機能しなくなった肝臓の代わりに

血液中のアンモニア濃度を下げなければなりません。

これには原因となるタンパク質の摂取量を減らすとともに、

必要なアミノ酸バランスを保てるよう薬や点滴などで補給する治療が行われます。

また、便秘の改善も行い、便が腸に滞留しないようにします。

食事ができない場合は、薬剤を用いて腸からアンモニアが吸収されにくいようにしたり、

産生を抑制したりします。

 

便秘を改善するには

このように重篤な肝性脳症の治療にも有効とされる便秘の改善ですが、

どうすれば良いのでしょうか?

まず、便秘の主な原因を考えてみましょう。

これには4つ考えられます。

  1. 腸内環境の悪化
  2. ストレスの影響
  3. 腹圧の低下
  4. トイレに行かない・行けない

この点を踏まえ、改善策を考えていきましょう。

腸内環境の改善

便秘の要因として大きいのが、「腸内環境」です。

腸内環境の改善には、

善玉菌・悪玉菌・日和見菌と呼ばれる

細菌のバランス(腸内フローラ)を整えることが大切です。

日和見菌は通常は悪さをしませんが、善玉菌が優勢になるとそれに加担するように働き、

腸内環境を悪化させてしまいます。

しかし、健康な腸では前述のように善玉菌が優勢となり、

悪玉菌も日和見菌も悪さをしないのです。

つまり、改善のポイントは“いかにして善玉菌を優勢にするか”です。

善玉菌が優勢になると、これらの菌が産生した酸などが腸管を刺激し、

腸の蠕動運動(便を送り出す運動)を活発にしてくれます。

 
そのためには、善玉菌が活性化するように

十分な栄養を腸まで送り届けてあげることが重要です。

ビフィズス菌に代表される善玉菌は、

他の細菌の体(菌体)やその生産物質(ビタミンや糖類)、

オリゴ糖や食物繊維などの難消化性物質が大好物です。

ですから、これらを含む食品を積極的に摂取しましょう。

発酵食品(ヨーグルト、チーズ、キムチなど)、豆類

きのこ類ゴボウ海藻などがおすすめです。

また、繊維質の豊富な食材を摂ったときは水分も一緒に摂りましょう。

便通を良くするには適度な水分が必要ですが、

食物繊維は水分を蓄えて便を柔らかくし、増量させて腸を刺激してくれるからです。

ストレスの緩和

胃腸などの消化器官はストレスの影響を大きく受けます。

例えば、緊張すると下痢になる、旅行などで環境が変わると便秘になる、

という人も多いことでしょう。

これらは精神的なストレスが胃腸に影響を及ぼしているために起こります。

ですから、リラックスすることも重要な便秘改善の方法です。

少しでも時間に余裕を持てるよう心がけ、

自分の好きなことのために使うようにしてみましょう。

運動をする

排便にはある程度の腹圧(腹筋による腹部の圧力)をかけることも必要です。

しかし、加齢や運動不足によって、腹圧は低下する傾向にあります。

男性よりも女性に便秘が多いのは女性ホルモンによる影響もありますが、

女性の方が腹筋が発達していないことも原因の1つと言われています。

しかし、肝臓に疾患がある場合、

腹筋を鍛えるなどの筋肉トレーニングはお勧めできません

なぜなら、筋トレは無酸素運動であるため乳酸が発生し、

その代謝を行う肝臓に更なる負担をかけることになるからです。

腹筋の強化にはなりませんが、腹式呼吸を行うと腹筋を動かすことができ、

腸にも刺激を与えられるので、こちらの方法をおすすめします。

また、運動はストレス解消にもなるので、

ウォーキングなどの有酸素運動を中心に取り入れると良いでしょう。

習慣化する

健康な人では便意は規則的におこります。

多くの場合は朝、飲食の刺激によって腸が活性化し便意を感じるのです。

しかし、忙しくてトイレに行くのを我慢したリ、朝食を抜いて刺激を与えなかったりすると、

便秘になりやすくなります。

ですから、少しでも朝食を摂り、一定時間トイレにいくことが大切です。

仮に便意を感じなかったとしても、毎日トイレに行く習慣をつけることが大事なのです。

時間にゆとりが持てるよう、少し早起きして体を動かすこともおすすめです。

便秘を改善して、肝臓の負担を和らげてあげましょう。