肝臓の病気には何種類かありますが、その多くの初期症状として現れるのが「肝炎」です。

でも、その原因は1つではなく、発症後の経過も異なっています。

ここでは“ウイルス”の感染によって引き起こされる肝炎を中心に、

感染経路症状治療法予後などについて、詳しくまとめました。

 

肝炎とその原因

肝炎とは、文字通り“肝臓に炎症が起きた状態”を指します。

炎症が起こると、その部位が赤く腫れあがって熱を持ち、触ると痛みを感じるようになります。

皮膚が外傷などによって炎症を起こしたときと同じですね。

 
では、炎症とは何でしょうか?

私たちには異物が侵入してきたときに体を守る「免疫」があります。

異物だと認識すると、

リンパ球などの免疫細胞がウイルスなどの異物を排除しようとして細胞ごと壊してしまいます。

このときに受けた細胞の傷や破壊によって炎症が起こるのです。

肝臓という臓器は肝細胞がたくさん集まって構成されていますが、

肝細胞で炎症が起こると肝炎と呼ばれます。

 
逆に言うと、肝炎が起きているということは、

免疫反応が起こるような異物が肝細胞にあるということになります。

そしてこの異物に当たるのがウイルスなどの微生物化学物質で、

この原因により診断名が次のように異なってきます。

ウイルス性の肝炎

日本人の肝炎のうち、約80%が「肝炎ウイルス」によるものといわれています。

肝炎ウイルスにはA型・B型・C型・D型・E型・G型の6種類が知られていますが、

日本人に多いのはA~C型の3つで、それぞれ感染したウイルスにより

A型肝炎」・「B型肝炎」・「C型肝炎」と診断名がついています。

これらの肝炎ウイルスに感染し、肝臓にウイルスが潜んでいる人を“キャリア”と呼び、

日本には400万人以上いると推定されていますが、

すべてのキャリアが肝炎を発症するとは限りません

“感染=発症”ではないので、発症しないまま生涯を送る人もいます。

 
いずれのウイルスも体外から取り込まれることで感染しますが、

ウイルスの特徴や感染経路には違いがあります

症状などの詳細については後述しますが、主なウイルス性肝炎の特徴をまとめておきましょう。

 

《ウイルス性肝炎の特徴》
特徴A型肝炎 B型肝炎C型肝炎
感染経路生水・生の魚介類
などから経口感染
血液・体液
母子感染
血液・体液
潜伏期間
2~6週間1~6か月1~4か月
症状
急激に発症
風邪に似た症状
風邪に似た症状
無症状の場合あり
風邪に似た症状
無症状が多い
一般的な予後1週間~3か月で完治。
永久免役。
まれに劇症肝炎を起こす。
2~3か月で正常化。
慢性肝炎の10~20%が
肝硬変へ移行。
劇症肝炎あり。
60~80%が慢性化。
20~30%が数十年後に
肝硬変や肝がんへ移行。

ここでは感染経路について、もう少し詳しく触れておきましょう。

A型肝炎は国内よりも衛生状態の悪い海外での感染が目立ちます。

海外旅行の渡航先によっては、必ず加熱殺菌されたものを飲食するように気をつけましょう。

多くは風邪のように一過性のものなので、予後は良好な場合がほとんどです。

 
B型肝炎は医療関係者の注射針の事故、出産時の母子感染のほか、

性交渉などで血液や体液を介して感染します。

かつては輸血で感染する病気でしたが、

現在では輸血用血液の検査がしっかりと行われているため、感染の危険は少なくなりました。

自覚症状が乏しいため、

自分がキャリアと気づかぬうちにパートナーに感染させてしまうケースや、

覚せい剤や入れ墨などの針の使いまわしなどで感染するケースが目立ってきています。

一般的には感染しても劇症肝炎を発症しなければ数か月で正常に戻りますが、

疲れがたまって体力が落ちたりしているとキャリアになってしまうこともあります。

中には慢性肝炎に移行するケースもあり、注意が必要です。

 
C型肝炎はB型と同じように血液や体液を介して感染しますが、ウイルス感染力は非常に弱く、

母子感染や性交渉などの日常生活からは感染しにくいと言われています。

しかし、B型と同様に針の使いまわしなどでは感染のリスクがあります。

また、国立国際医療研究センターの“肝炎情報センター”によると、

  • 1992年以前の輸血
  • 1994年以前のフィブリノゲン製剤
  • 1988年以前の血液凝固因子製剤

ではウイルスのチェックが不十分だった可能性があるため、

これらを用いた人の中にはキャリアになっている人もいます。

ほとんど自覚症状がないのが特徴ですが、

長い時間を経て重い肝臓病を発症する可能性があるため、見過ごすと危険です。

 
なお、A型肝炎B型肝炎には任意の予防接種があります。

海外旅行などで不安な地域へ行く場合は、念のため受けておくと安心ですよ。

ウイルス性以外の肝炎

肝炎は異物によっておこる炎症ですから、ウイルス以外の異物によっても起こります。

例えばウイルスよりももっと大きい“寄生虫”でも炎症をおこしますし、

生物以外の物質でも起こります。

このうち、お酒に含まれるアルコールによるものを「アルコール性肝炎」、

使用された薬剤によるものを「薬剤性肝炎」、

免疫異常によっておこるものを「自己免疫性肝炎」と言います。

さらに、薬剤性肝炎には薬の毒性によっておこる「中毒性肝障害」と、

薬にアレルギー反応を起こしたことによる「アレルギー性肝障害」があります。

肝炎の症状

原因は違っていても、肝炎は発症や症状の経過から、大きく3つに分けることができます。

 

《肝炎の分類》
種類特徴
急性肝炎突然発症するもの。
予後は良好であることが多い。
慢性肝炎6か月以上にわたって炎症が治まらないもの。
肝障害が進行するものあり。
劇症肝炎急性肝炎のうち、1週間~10日ほどで死に至るもの。

A型肝炎は急性のものがほとんどですが、B型・C型は急性と慢性のケースがあり、

慢性化すると肝硬変や肝がんなどへ移行するリスクが高まります。

また、発症までのウイルスの潜伏期間は上表の通りで、

感染後すぐに発症するわけではありません。

 
それでは具体的な症状を紹介していきましょう。

急性肝炎

急性の場合、どのウイルスでも前駆症状(前触れとして現れる症状)は風邪に似ており、

発熱やのどの痛み、頭痛などです。

この段階で肝炎と見抜くことは非常に難しいと言われており、

病院へ行っても風邪薬をもらって帰宅することがほとんどです。

しかし、その後、肝機能障害に特有の“黄疸”“褐色尿”などが現れ、

これに伴って食欲不振や全身倦怠感、吐き気などの症状が出現します。

黄疸とは目の白目部分や皮膚などが黄色味を帯びてくるもので、

炎症によって肝機能が低下したことにより

“ビリルビン”という物質を排出できなくなったことで起こります。

同様に尿の色もウーロン茶やコーラのような黒っぽい色に変化します。

慢性肝炎

B型・C型肝炎では、一過性の肝炎を起こしたあと、肝機能が安定して一生を過ごせる人と、

ウイルスの一部がおとなしい型に変化し、

大きな症状は出ないものの炎症が継続して慢性化する人がいます。

慢性化する率はウイルスによって異なり、

B型では10~20%C型では60~80%とされています。

慢性肝炎の難しい点は

自覚症状に乏しく、体がだるい、疲れやすい、食欲がないといった程度

重要視することができないところにあります。

このため健康診断などで感染がわかったり、

症状が進行した肝硬変・肝がんなどに至ってから知ったりといったケースも少なくないのです。

さらに、本人が知らないことで家族にうつしてしまうこともあり、

特にB型肝炎は注意が必要です。

劇症肝炎

急性肝炎を発症した人のうち、約1%が劇症肝炎になるといわれています。

C型肝炎から劇症肝炎を起こす人はまれですが、劇症肝炎の発症者のうちB型肝炎が約40%

そのほかA型肝炎や薬剤性肝炎からも発症することがあります。

 
劇症肝炎の定義は簡潔に表現すると

「肝炎を発症してから8週間以内に肝性脳症を発症し、

血液の凝固因子が基準値以下になっている状態」のことです。

肝性脳症や血液の異常は、肝細胞が急激かつ大量に破壊されることで、

肝臓が受け持つ代謝や解毒といった機能が行えなくなった結果、

有害な物質が体内に蓄積してしまうことで起こります。

 
しかし、初期症状は急性肝炎と同様で、

風邪に似た症状(熱、嘔吐、倦怠感、食欲不振など)から黄疸・褐色尿へと進行します。

ただし、急性肝炎では症状が治まっていくものの、劇症肝炎ではどんどん悪化し、

意識障害ろれつが回らなくなるなどの症状が現れてくるのです。

また、脳浮腫、感染症、消化管出血、腎障害等の重い合併症を引き起こすことが多く、

多臓器不全の状態になるのが特徴です。

 
劇症肝炎には「急性型」と「亜急性型」があり、

前者は肝炎発症後10日以内に、後者は10日以降に肝性脳症が現れます。

死亡率は高く、急性型で50%、亜急性型では80%と言われていますが、

最近では生体肝移植を行うことで、救命率が向上したと言われています。

 

検査方法

肝炎とは肝細胞に炎症が起きて、腫れたり壊れたりしている状態のことでしたね。

肝細胞が壊れると、細胞膜に覆われていた中身が外に漏れだし、

血液中に交じるようになります。

つまり、肝細胞に特異的に多く存在する物質が血液の中にあったとしたら、

それは肝臓が炎症を起こし、肝細胞が壊れていることを意味します。

この指標となる物質が、肝細胞に特に多く存在する酵素で、

血液検査項目のALT(GPT)やAST(GOT)などが該当します。

また、黄疸の指標となるビリルビン値も上昇します。

 
これらの血液検査の結果、

ある程度以上の炎症が認められる場合は“再検査”“要精密検査”となり、

ウイルスが原因かどうかを確認する「抗体検査」を行い、診断を下します。

また、肝臓がどのくらいダメージを受けているかといった重症度を調べるため、

プロトロンビン時間へパプラスチン時間という血液の凝固機能を測定します。

 

肝炎の治療と予後

それではウイルス性肝炎を発症した場合、

どのような治療が行われ、予後はどのような経過を辿るのでしょうか?

急性肝炎

急性の場合はA型もB型も安静にしていれば自然に治ります

特に治療を行わないことも多く、

体力の消耗などの症状によっては栄養剤を点滴するなどの処置がとられることもあります。

 
ただし、A型の場合は経口感染するので、家庭内などでの集団感染に注意しましょう。

一度感染すると永久的に免疫ができるので再感染することはありませんが、

劇症肝炎という非常に危険な状態に陥る例もあります。

症状が急変した場合は、すぐに医療機関を受診してください。

慢性肝炎

B型肝炎の一部とC型肝炎は慢性化しやすい肝炎ですが、

肝機能が落ち着いていれば特に治療をしないケースがほとんどです。

日常生活に支障はありませんが、

休息をしっかりとること、禁酒はもちろんですが過食にも気をつけて過ごしましょう。

また、感染が確認されたら、例え症状がなくても周囲の人を感染させないよう注意しましょう。

お風呂やトイレの共有などは問題ありませんが、

血液や体液が付着する可能性がある歯ブラシ・剃刀・タオルなどの共用などは避けましょう。

出血(月経含む)がある時は入浴などを避け、血液が付着した物は確実に処分しましょう。

また、性交渉時はコンドームを使用して下さい。

 
ただし、慢性肝炎は肝硬変や肝がんに進行する可能性があることを忘れてはいけません。

肝臓の炎症が治まらない場合は飲み薬や注射などの投薬治療を受けましょう。

投薬の目的は

  • ウイルスの増殖を抑制すること(抗ウイルス薬
  • 肝臓の炎症を抑えること(肝庇護法

で、医師の判断により行われます。

抗ウイルス薬として用いられる主な薬は次の通りです。

 

《抗ウイルス薬の種類》
肝炎薬剤
B型肝炎《核酸アナログ製剤》
エンテカビル、テノホビル、
ラミブジン、アデホビル
《インターフェロン療法》
下欄参照
C型肝炎《インターフェロン療法》
インターフェロン(ペグインターフェロン)、
リバビリン、プロテアーゼ阻害剤の3剤の併用など
《非インターフェロン療法》
抗ウイルス薬(プロテアーゼ阻害剤、NS5A阻害剤、
ポリメラーゼ阻害剤のうち2種を併用)

一方、肝庇護法の治療薬は

内服薬のウルソデオキシコール酸と注射薬のグリチルリチン製剤が一般的です。

いずれの薬剤も軽度の肝障害に対してはある程度有効ですが、根治には至りません。

 
治療法の選択は自分のライフスタイルや希望を伝え、医師に判断してもらいましょう。

肝炎の治療には1年間はかかります。

インターフェロンは注射なので週一回の通院が必要ですが、

発がん抑制効果や飲み薬に耐性があるウイルスに対しても効果がある

というメリットがあります。

反面、うつ症状や倦怠感などの副作用も報告されているほか、

インターフェロンの効果が出にくい人もいます。

 
一方、飲み薬による治療は、

効果確認のために2週間に一度の血液検査を受ける必要がありますが、

インターフェロンよりも通院の負担と副作用が少ない点がメリットです。

また、中には肝硬変の改善が報告された薬もあります。

ただし、耐性ウイルスが生じる可能性や、

てんかんや不整脈などがある人は治療薬が使えないなど、薬剤治療に向かない人もいます。

また、B型肝炎の場合は母子感染の懸念があるため、

妊娠前に治療することが望ましいのですが、万が一の妊娠を考えると、

胎児への影響が懸念される核酸アナログ製剤よりもインターフェロンの方が安心です。

いずれにせよ、投薬治療を勝手に中断すると、

肝炎が急激に悪化し、肝不全を起こして死に至る可能性もあります。

必ず医師の指示に従って、治療を続けましょう。

なお、肝炎の治療に使われる薬剤には、

自治体によって医療費助成が行われているものもあります。

該当する薬かどうか確認してみると良いでしょう。

 

肝炎が悪化すると

急性であれば予後は良好、

慢性でも初期のうちに適切な治療と節度ある生活を送っていれば、

驚異的な肝臓の回復力によって改善が見込まれます。

ただし、この回復が難しくなるのが肝細胞の「線維化」という現象です。

 
線維化は細胞で炎症と回復が繰り返されるうちに、

異常にコラーゲン線維を産出するようになることで起こります。

これによって細胞が硬くなり、

これが広範囲に広がっていくと「肝硬変」と呼ばれる状態になります。

さらに、肝硬変まで進行すると肝細胞でがん化が起こりやすくなり、

肝がん」へと進行してしまいます。

「肝硬変」も「肝がん」も、かなり進行するまで自覚症状が少なく

気づいたときには取り返しのつかない状態になっているケースも珍しくありません。

肝臓は異常を見つけにくい臓器です。

定期的に検診を受け、早期発見に努めましょう。